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脳卒中(脳出血・脳梗塞)におけるHALⓇによるリハビリの有効性 – 岡山ロボケアセンター

岡山ロボケアセンターの技術顧問である倉敷紀念病院リハビリテーション科総括部長の伊勢眞樹医師に、岡山ロボケアセンター・中野がインタビューを行った。

中野

最初に、伊勢先生は、岡山ロボケアセンターにおいて月2回利用者様との面談、リハビリの指導を行っていただいています。
その面談の際に、ほぼすべての利用者様にお話になる内容として次のようなことがあると思うのですが、ここで改めて再確認させてください。

  • 1. 脳卒中(脳出血・脳梗塞)におけるセラピストによる徒手的な他動/自動運動(以下受動型)ではなく、HALの支援による自動運動(以下能動型)リハビリの重要性
  • 2. リハビリにおける2つの重要なポイント
  • 3. その他、リハビリの継続の重要性等について

目次

1. 脳卒中(脳出血・脳梗塞)における受動型リハビリではなく、能動型リハビリの重要性

中野

まず、受動型と能動型の違いについての個人的見解を述べさせていただきますが、リハの対象となる利用者様へのアプローチとして「受動型」というのは、多くの施設で従来から行われている現状のセラピストによる徒手的なリハビリ方法、「能動型」というのは、私達が提供している装着型サイボーグHALを活用し、本人の運動意思を基にHALが運動を支援し、それによって機能向上を促す方法という認識でよろしいでしょうか。

伊勢Dr

その認識で問題ないと思います。「受動型」の場合、利用者様とセラピストがお互いにタイミングを合わせてリハビリを行っていくわけですが、常に目的とする運動・動作のタイミングを100%一致させることは非常に難しいわけです。

「能動型」の場合、利用者様の運動・動作と利用者様の意思(神経信号:運動に関わる必要な脳からの伝達信号)によるHALの支援がタイミングのずれが無く一致しますので、これは「受動型」つまりセラピストの他動/自動運動に支援よりも運動・動作への支援のタイミングが一致しはるかに的確な支援が行えるわけです。

中野

二人三脚や二人羽織が難しいのと同じことでしょうか。

伊勢Dr

そうですね。従来は、「受動型」のリハビリしかなかったため利用者様の意思による動作とセラピストの動作の支援のタイミングのずれが生じているのは、例えられたように本人と他人の間に生じることで仕方がありません。しかし、HALによる支援は大きく異なります。
先に述べましたように利用者様の意思によるHALによる支援は、タイミングのずれがほとんどないことがHALの最大の特長です。利用者様の脳神経フィードバックを活用し、脳神経の再構築を促すという点で、「能動型」のリハビリは脳卒中において有効であると認識しています。今は慢性期の利用者様が多く治療されていますが、今後はさらに急性期に該当する段階では特に有効となるでしょう。

発症直後は、脳が神経の再構築を活発に行っている時期ですので、その段階でHALが活用されることにより、脳卒中後の脳機能の回復により有効であると考えられます。

中野

HALを介することにより、脳神経・筋系の再構築をより効率的に行うことができるのですね。

そこで、質問なのですが、脳卒中(脳出血・脳梗塞)発症後、数年経過した状況におけるHALの活用については、どのようにお考えですか?

伊勢Dr

発症後に長期経過した方については、やってみなければ分からないというのが正直な回答です。ただし、無駄とか意味がないということではありません。誤解のないように補足するなら、HAL以外のいわゆる医療、治療といわれるものすべてがそうであるように、100点というものはほぼ存在しません。実際に実施されればお解りになると思いますが、施行された多くの利用者様が「あ~~っ、こうだった。」「そうだった・・」といった感想を述べられます。このことが“自分の意思で動く”ことの重要性やロボットによるリハビリの可能性を示していると考えています。ただし、すべての利用者様が同じ感想を述べられるわけではありません。筋肉疲労や筋肉痛を訴えられるだけの利用者様も少なからず居られます。しかし、そのような利用者様でもほぼ皆様が継続していただいてます。発症後今までのリハビリにおいて、“自分の意思で動く(実際はHALの支援による運動・動作)”ことをするのが難しかった利用者様が、実際に“自分の意思で動く”体験をされることは得難い貴重な経験をされているのではないかと考えています。個人的でかつ大げさな表現で恐縮でいたしますが、利用者様の人生において“自分の意思で動く”ことが、その方の今後の生きる希望として記憶に深く刻まれるのではないか・・と思っています。

従来HALのような「能動型」のリハビリは残念ながらなかったわけですから、発症後の経過が長くても上記の理由で、ご本人の希望により実施することには何も問題ないと思っています。

2. リハビリにおける2つの重要なポイント

中野

伊勢先生は、リハビリにおいて重要なポイントが2つあるとご説明されますが、改めてご説明をお願いします。

伊勢Dr

リハビリの重要なポイントは、1つはリハビリの『質』であり、もう1つはリハビリの『量』であると考えます。例えば、「スクワット」は多くの方が知っているトレーニングでしょうし、行っているトレーニングだと思います。ただし、「スクワット」はやり方、その運動の方法すなわち運動の質を間違えると膝にダメージを与えるだけのマイナスのトレーニングとなってしまいます。
『質』という面では、「能動型」のHALは非常に優れていると思います。繰り返しになりますが、本人が動こうとする意思に従ってアシストするわけですから、脳神経・筋系の再構築、フィードバックループの強化という面で有効であると思います。つまり、その時の状態にて“最適に”動くことが自分の意思でできる、すなわち最適な運動を質が保証された状態で作ることができ、それを繰り返すことができるメリットがあります。

リハビリの『量』という面では、“自分の意思で動く”ことで質が保証された最適な運動として繰り返すことが可能となり、結果的に運動の量も確保されることになります。この最適な運動の繰り返しにより、脳神経・筋系の再構築、運動・動作の再学習が可能になります。「こうだった・・」という感動と経験が、ご自身での自宅での運動練習の継続の動機となり、日常生活での最適な運動の発見と継続、さらに新たな動作の獲得につながってくると考えます。

3. その他、リハビリの継続の重要性等について

中野

先ほど、リハビリの『量』という言葉がありましたが、これについても伊勢先生のよくおっしゃる『生活期リハビリの重要性』『副作用のない処方薬』という言葉ともつながると思いますので、こちらのご説明もお願いします。

伊勢Dr

『生活期リハビリの重要性』については、「受動型」「能動型」といった形態に関わらず重要なことですが、リハビリの時間だけですべての改善が見込めるわけではないということですね。

岡山ロボケアセンターで例えるなら、「週1回1時間のリハビリをしておけば、後は何もしなくてもいいですよ。」という話ではないということです。

1週間で1時間実施した以外の残りの167時間の過ごし方の方が重要です。

こちらでできるようになったこと、私が面談した際にお渡しする「宿題:家での自己練習」をどれだけ日常生活の中に取り込んでいくか、習慣化するかが重要です。

“質が保証された運動”は、利用者様が最適な運動・動作、または行為を継続するために必要な“処方された薬”と同じと考えてよいものです。したがって、後に述べますように“処方された薬”と同様に飲み続けていただかなくてはなりません。または、利用者様の生活習慣の中に“あたかも歯を磨くように、顔洗うように”取り込んでいただかなくてはなりません。そのことによりHALで獲得された“自分の意思で動く最適な運動”が、日常生活の維持・拡大に役立ってくるのです。

『副作用のない処方薬』については、現場において、よくご高齢の方で「先生、これをいつまですればいいですか?」と質問をされる方がいらっしゃいますが、私の答えは決まっていて「ずっと、一生です。」です。なぜなら、先ほど述べましたように高血圧症であれば、血圧を下げるための薬を飲み続けられますが、それと同じようにリハビリも続けていただくことが重要だからです。特に、安全性を保証した処方されたリハビリは身体にとって悪い副作用が生じる心配はあまりないので、やらない理由がないですから・・・。ただ、これもいつも申し上げますが、「リハビリだから一生懸命続けなければならない。」といって大上段に構えることはやめましょう。
『だらだらと』『ほどほどに』『適当に』これが運動を習慣化するためのコツです。

宿題は10回だったけど、今日は3回しかできなかった。これでも十分です。100点満点にこだわらず、30点でも40点でもいいから続けること。続けることでその内に、日々の“歯磨きの習慣“のようにしないと気持ち悪くなる感覚になってくることが重要です。

中野

伊勢先生が必ずお伝えになる『だらだらと』『ほどほどに』『適当に』という3つの言葉は、面談されたご利用者様にとっても非常に印象的な言葉ではないでしょうか。手帳にメモをされる方もいらっしゃいますよね。

普段は、伊勢先生と利用者様の面談を周りで聞かせていただいていますが、今日は改めて直接説明を伺い、再確認させていただく良い機会となりました。

今日は、本当にありがとうございました。今度ともよろしくお願いします。

伊勢Dr

こちらこそ、よろしくお願いします。

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