急性リンパ性白血病の薬物治療に伴い末梢神経障害になった小学生。HAL単関節タイプを使った運動で足関節の機能と立位姿勢制御が向上された事例
近年のがん治療は集学的治療が行われており、抗がん剤によるがん薬物療法は、治療効果の高い新規抗がん剤の開発や投与方法の開発によって、患者の生存期間の延長に寄与し、手術療法や放射線治療と並んで、がん治療の三大治療法として重要な役割を担っている。
また、多くの抗がん剤に対する支持療法の進歩により、抗がん剤の投与量を増やすことができるようになっている。その反面、抗がん剤による末梢神経障害は、古くから知られているにも関わらず、その発生機序の詳細は不明な点が多い。一般的な腓骨神経麻痺や脳血管障害による足首の障害による足の脱落は、歩行や日常生活動作(ADL)を阻害する要因の一つである。腓骨神経は腓骨頭の近位に位置する。腓骨神経は腓骨頭の近位に位置し、外傷による損傷や肢の安静位が悪いために圧迫を受けやすい。また、損傷の程度を表面から判断することは難しく、軸索の再生は1mm/日の速度で行われるため、手術を行うか経過観察を続けるかの判断が難しいと言われている。しかし、長期間の脱神経により術後の回復が困難となり、総腓骨神経麻痺による後遺症として下垂足を来す患者も少なくない。そのため、総腓骨神経麻痺による足部下垂に対しては足関節の麻痺を緩和し足関節背屈筋力を向上させ、脳卒中による足関節障害に対しては足関節の痙性を軽減させることが強く望まれているしかし、白血病に対する薬物療法に伴う末梢神経障害、総腓骨神経麻痺の症例にHAL®単関節タイプ(足関節)を使用した報告はなく、その有効性は十分に検討されていない。
今回、総腓骨神経麻痺により足関節背屈困難である患者に対し、HAL®単関節タイプ(足関節)を用いた即時効果として、専門プログラム実施後の立位姿勢、立位姿勢制御能力について検討した症例報告である。
目次
対象者
利用者は11歳男性(身長157cm、体重66kg)で、急性リンパ性白血病の薬物治療に伴い末梢神経障害を両手・両足の筋力低下が認められた。入院中は廃用症候群も加わり、運動機能低下を認めた。白血病治療退院後は独歩可能まで改善したが、長距離歩行は困難、階段昇降も手すり使用で昇段は可能であるが、降りは困難であった。神経伝導速度検査は痛みがあり、正確な数値は測定困難であり、末梢神経障害と診断された。自宅退院2ヶ月後で、HAL®単関節タイプ(足関節)による両足関節の専門プログラムを開始した。
プログラム開始前
下肢筋力の徒手筋力検査(MMT:右/左)の結果は以下の通りであった。
足関節底屈は5/4-、背屈は4/4-、外転は4/4、内転は4/4、足趾伸展5/4であった。
足関節の可動域は、他動で足関節背屈膝屈曲位‐20°/-10°、膝伸展位-30°/-20°、外転10°/10°であった。
両脚の最大下腿周径は40.0cm/40.5cm(右/左)であった。
立位姿勢は裸足では静止立位困難で、足踏みをしながら姿勢制御をしていた。
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プログラム内容
HAL®の表面電極センサーを座位姿勢の前脛骨筋と腓腹筋に取り付けた。週2回各30分、端座位と立位で専門プログラムを行った。
足関節背屈は自動運動では足趾伸展筋での代償が多く、足趾伸展を制御下での足関節背屈はわずかに前脛骨筋の収縮を認めたが、全可動域の足関節背屈は困難であった。
専門プログラムは以下の6つのステップで実施した.
(1)足関節背屈運動の確認し、HAL®を用いた専門プログラムの準備とHAL®単関節タイプ(足関節)装着の準備(HAL®単関節タイプ(足関節)の表面電極をTAと腓腹筋に装着)
(2)HALを装着した端座位での足関節背屈運動(50~100回)
(3)足趾伸展制御下での足関節背屈運動(25~50回)
(4)立位での足関節背屈運動を(2)(3)と同様の状態で実施(25-50回)
(5)自主的な運動と生活改善の指導を実施した.
結果
結果は即時効果として,閉脚立位姿勢は30秒程度可能になり,立位姿勢は足関節背屈・底屈の協調運動が困難で,頭部・体幹によるカウンターウエイトでの姿勢制御から,股関節ストラテジーを中心とした姿勢制御が可能となった.足関節背屈は足趾伸展運動が少なく,前脛骨筋収縮と下腿三頭筋との協調運動での足関節ストラテジーでの姿勢制御が確認されている.
考察
今回,白血病に対しての薬物療法による末梢神経障害,総腓骨神経麻痺の患者に対して単関節タイプHAL®(足関節)を使用し,足関節の機能と立位姿勢制御能力の改善を認めた症例について報告した.単関節タイプHAL®(足関節)を用いた足関節背屈トレーニングは腓骨神経麻痺の機能回復に有効な方法である可能性が示された.薬剤性末梢神経障害でも軸索障害は最も多くみられる障害と言われている.神経細胞体は保たれているため,早期の薬剤中止もしくは自然治癒すると言われている.しかし,本症例のように入院治療により廃用症候群が加わり,代償動作による動きが増え,前脛骨筋の収縮が少ないため,軸索損傷の改善が乏しかったと考えられる.単関節タイプHAL®(足関節)を使用することで代償動作を防止し,適切な筋収縮を促すことができたと考えられる.患者の意志に沿った運動補助を行う単関節タイプHAL®(足関節)の使用を伴う背屈運動を組み合わせた訓練が,腓骨神経が支配する筋群の機能再編成に有効であった可能性がある.すなわち,末梢神経障害に対しては,筋力の回復だけでなく,運動学習の誘導を目的とした治療が必要である.末梢神経障害の一種である腓骨神経麻痺の治療において,運動補助が可能な単関節タイプHAL®(足関節)によるトレーニングは,運動学習の側面から有効な手段であると考えている.未だ2回のみの結果であり,更なる改善を目指し,専門プログラムを継続していく.
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