再生治療後にHAL®を使用して日常生活の拡大に繋がった事例
日本において2017年より発症早期に対する再生治療が開始されています。田口らの研究グループは増殖期(発症後数日~数週間)の血管再生促進をターゲットにしたヒト自己骨髄単核球細胞(造血幹細胞)の静脈血投与の臨床試験を進めており、有望な結果を得ているとの報告があります。その一方で発症後1年以上経過した方への再生治療に関する報告は少ない状況です。今回、当センターにおいて発症後1年以上経過した後に脳卒中の後遺症の改善、再発の予防を目的とした再生治療 「自己骨髄由来幹細胞点滴」「臍帯由来サイトカイン療法」を受け、集中的なHAL®を使用した運動プログラム(Neuro HALFIT®)を実施 されたO様について紹介します。
【O様の紹介】
O様は40代の男性で広島市内に奥様と2人暮らしをされています。2017年に発症した脳出血の後遺症として右半身に軽度の運動麻痺がありましたが、復職され、病前同様の生活を送られていました。しかし、2021年脳出血を再発し、新たに左半身に運動麻痺、感覚障害が残存 しました。現在、 屋内は手すりを使用しながら伝い歩き、屋外は後遺症の影響から左半身を円滑に動かすことが難しく、疲れやすいため奥様の介助のもと、車いすで移動しています 。仕事はご自宅でパソコンを使用した簡単な作業から少しずつ再開されています(図1)。週 2回の訪問リハビリや個人で自主トレーニングを続けていましたが、身体のコントロールの難しさから思うように歩行ができない状態でした。
図1
【2022年10月Neuro HALFIT®プログラム】
初回利用の3日前にO様は再生治療を受け「少しだけ姿勢がよくなった気がする」と仰ってました。ただ、再生治療の担当医から「再生治療の後はリハビリを積極的に行うことが大切だ」と説明を受けたそうです。また、O様自身からも「歩きをスムーズにしたい」「歩く場面を増やしたい」そして「マンションのごみ捨て場までを杖で歩いていきたい」との要望があり、初回派HAL®自立支援用下肢タイプ(以下、HAL®下肢タイプ)を使用したNeuro HALFIT®︎を実施しました。初回利用時(再生治療3日後)の10mの距離を歩く(以下、10MWT)ことに要した時間は60秒、バランス能力をみるTimed Up and Goテスト(以下、TUG)では52秒を要していました。歩行時は左脚を前に出す際に、体幹・左脚の動揺を認め、歩行が不安定になる様子がありました。
【HAL®下肢タイプによる歩行プログラム】
初回利用時よりHAL®下肢タイプのCVCモード(装着された方の生体電気信号を基にした制御)を積極的に使用した、歩行運動を行いました。HAL®使用中は感覚への働きかけを目的にモニターに映る身体状況を視覚的に確認しながら、左脚への荷重移動を繰り返し練習し、適宜修正を行いました。また、オールインワン(免荷式歩行器)を使用することで、歩き回る感覚を掴んでいただきました。2回目からは歩行距離を増加させるためにトレッドミル(図2)を使用した歩行プログラムへと移行しました。
図2
初回に比べて2回目の利用時は左脚を前に出す、左脚で身体を支える際の左脚の動揺が軽減し、2回目終了時の10MWTは51秒、TUGは48秒と初回からのタイムの改善が認められました。O様からも「歩くときの怖さが少し無くなった」と効果を実感いただくことができました。
【日常生活での変化】
まだ2回目が終わったところですが、歩行が安定したことで、O様より「怖くて行えていなかったゴミ捨てに、杖で行くことができた(図3)」「家の中は手すりを使わなくても少し歩けるようになった(図4)」とうれしいお話がありました。また、「1人で歩いてタクシーに乗ってスタバに行ってみたい」というような前向きなお話もあり、今後は更なる体力や歩行スピードの向上を目指していくそうです。当ロボケアセンターとしても、歩行能力の向上だけでなく、活動範囲の拡大、生活の質の向上に寄与できるように全力でサポートしていきたいと思います。
図3 図4
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